JOURNAL #442022.06.08
私たち医療チームは、モルドバ共和国キシナウ市内の避難所の一角で、ウクライナ避難民への診療支援を継続しています。
今回は、医薬品支援事業のモニタリングと対象病院を視察して現状を調査するため、医師1名、調整員1名、通訳・ドライバーとともにウクライナのオデッサに現地入りしました。
活動場所であるキシナウから陸路で国境を越え、約2時間でオデッサに入ります。
もともとオデッサは黒海に面したウクライナ屈指の観光地で、侵攻が始まる前は多くの観光客が訪れていたそうです。
日々キシナウの診療所に訪れるオデッサから避難していた人々から聞いていた通り、オデッサは本当に素敵な街です。
紛争の結果ウクライナ東部から逃げてきた国内避難民も多く滞在しているオデッサですが、綺麗な建物が立ち並び、砲撃のない間の街は至って平穏で、人々の日常生活が続いているようにも見えます。
5月9日の戦勝記念日以降も、オデッサは攻撃の対象となっていますが、訪問日は週末だったこともあって、多くの人々が公園やレストランで休日を楽しんでいる様子が見受けられました。
一方で、街の道路には所々土嚢が積まれてバリケードが設置されているなど戦時を感じさせる風景もあります。多くの人を魅了してきたオデッサのビーチは、戦時下で立ち入ることが出来なくなっています。
不思議なほどに平穏と感じるような街の様子に、所々暗い雰囲気が漂う、とても不思議な感覚でした。
今回の一番の目的は医薬品支援のモニタリング、対象病院の視察および調査です。
ウクライナ侵攻開始直後、従来の医薬品供給ルートが途絶え、深刻な医薬品不足が発生していました。モルドバに拠点がある私たちは、モルドバの提携団体であるNCUMや保健省を通じて、ウクライナ国内のオデッサ子ども病院に医薬物資を届けました。
病院ではスタッフの皆さんが温かく迎えて下さり、支援してくれてありがとうとお礼状を頂きました。
病院の現状やウクライナの医療ニーズについて様々なお話を伺うなかで印象的だったのは、「もともと空爆の対象にならないよう、医療機関を示す赤十字マークを屋根に付けていた。しかし、キエフ等他の場所で同じマークを付けた医療機関が攻撃されてから、政府の指示で取り外した。」というお話です。
病院が攻撃の対象になるということは、もちろん人道的に絶対にあってはならないことです。
しかし近年、他の紛争地でも医療機関への攻撃が数多く起こっています。
意図的であるかという議論があるとしても、命を助ける場所である病院にいてさえも攻撃に怯えないといけない現実を目の前にして、不条理さを改めて強く感じます。
今回の訪問では、ほかにオデッサで物資配付を行っている民間支援団体も訪問しました。
そこでは実際の支援物資を見せて頂き、街の薬局の医薬品不足や現地のニーズ等、様々な情報を共有していただきました。
同団体は、オデッサの医師が自身の貯金を使って始めたNGOです。現在は国内外の方からの支援を集い、2-4人のスタッフで一週間に500人程度への配付をおこなっています。彼らの労力は計り知れず、身を粉にして活動しています。
こうした助け合いの輪が広がる世の中になることを切に願います。
今回は、セキュリティ面にも考慮して限られた時間での訪問でしたが、現地の方と直接お話することで、薬局の医薬品不足など多くの現状を知ることが出来ました。
今後も支援を続けながら更なる調査を行い、ニーズに合わせて更なる支援に繋げていく必要があります。
私は今回の出張後も看護師としてモルドバでの診療支援に戻っていますが、今後も空飛ぶ捜索医療団は医療に限らず様々な方面からの支援を行っていきます。
皆さまからのあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。
https://arrows.red/supporter_me/
WRITER
看護師:
北川 光希
神戸市看護大学卒業後、カナダ留学を経て神戸市中央市民病院の救急部門で勤務。その後離島僻地医療や、新型コロナウイルス専門病棟、宿泊療養施設での勤務を経て、2021年9月からピースウィンズ・ジャパンに勤務。
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