JOURNAL #382022.03.25

パラオ共和国での緊急医療支援活動を終えて

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”医師の坂田大三です。パラオ共和国からの要請をうけ、COVID-19対策支援活動を行いました。26日から17日までの計11日間行った現地での活動を報告します。

【パラオ共和国へ日本から医療支援物資をとどける】
パラオ共和国の人口は約2万人で大小300ほどの島々から成っています。当時、初めての感染流行がピークにあり、国民の10%近くの方が感染している状況(多くはオミクロン株)でした。

国内唯一の総合病院であるベラウ国立病院では、COVID-19検査体制が追いつかず、毎日多くの発熱者の検査と、海外渡航者の入国時、帰国時検査に追われていました。抗原検査キットが多用されている中、簡易キットを使用して行うPCR検査機器が2機あり、1時間に8検査程度の能力でした。
そこで、パラオ保健省と国立病院からの正式な要請があったこともあり、日本から航空機を利用して、検査試薬(冷凍保存が必要)とPCR機器、感染防御具、抗原検査キットを送り届けました。パラオ共和国政府の要望でもあったことから関税は免除となり、無事に最もニーズが高い時期に物資を届けることができました。

今回のミッションは、タイムリーな支援を行うために、ロジスティクスチームのメンバーが昼夜問わず関係各所と調整を行い実現したもので、多くのPWJ職員、寄付者の想いも一緒に運ばれました。
予定通りに固定翼機に積まれた物資が到着した際は非常に感慨深いものでした。

成田国際空港にて:全国から医療物資を集めた。機内へ預けるためPWJスタッフで38箱から26箱へ整理梱包。
ガルフストリーム・コマンダー式695型:冷凍保存が必要な検査試薬と実験器具などを輸送。その後はトンガへの物資支援のため飛び立ちました。
ベラウ国立病院前にて。パラオ共和国保健大臣(中央左)柄澤大使(中央右)
ベラウ国立病院MeKoll院長へ物資寄贈

▼物資寄贈内訳
抗原検査キット:3,730個
N95マスク:2,360枚
サージカルマスク:2,000枚
フェイスシールド:1,650枚
RT-PCR試薬、RT-PCR機器+PC、実験器具

【RT-PCRの技術指導】
今回のPCR機器を実際にパラオで使用してもらうため、現地の検査技師への技術指導を行う必要がありました。私は米国留学時代に生化学を専攻していたこともあり、PCRは学生時代から行ってきた実験手技でもありました。

それでも実験の勘や、手技のプロセスは確認する必要があったため、PCR検査を受注する企業であるF medical equipementの協力で出国前に実際の手技を復習させてもらいました。この企業との繋がりは、ARROWSがコロナ対策支援を始めていた2020年秋にさかのぼります。
当時PWJでは、日本国内の検査能力の低さを問題視していた東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授と村上財団と共に、検査体制の拡充を目的としたクラウドファンディングを行っており、その際に、知人を通じて知り合いました。

全国的にマスクが店頭から姿を消したあの頃、PWJは150万枚以上を全国の小規模医療機関や高齢者・障がい者福祉施設に配布しましたが、Fmedical の竹口先生も国際協力NGO Japan Heartと協力して大量のマスクを日本に輸入し、感染対策に尽力されていました。
恵比寿にあるクリニックの一角で起業されたばかりの頃に初めてお会いしましたが、現在は関東で3箇所のPCR検査センターを運営するまでに事業を拡大しています。
今回、RT-PCR検査を行う上での技術指導と物資寄付をいただいたF medical equipments/東京TMSクリニックの竹口先生、楯さん、そして抗原検査キットを安価で提供いただいた株式会社ghの後藤さんには大変お世話になりました。この場をかりて御礼申し上げます。

F medical equipmentにて:深夜まで検査を行っていました
竹口先生(写真右)、楯さん(写真左)林さん(中央):物資寄贈、技術指導のみならず、遠隔でも相談にのってもらいました

現地に私が到着してからは、どこでどのようにRT-PCR検査*1を行うかを調整していきました。全国で医師が30名程度しかいないパラオで、どれだけ検査設備が整っているかということに不安がありましたが、実際に病院を訪問してみると検査技師が6名程度常駐しており、なかには経験豊富な技師(米国グアムで研修を積んでいる)がいて、PCR操作にも慣れている方がいて安堵したのを覚えています。

では、どこで検査を行うのか。院内の検査室スペースが限られており陽性検体を扱うことから院内では駄目だと検査室長に言われてしまいます。屋外でさらに機械の電源が確保される場所を探していると、幸運にも数ヶ月前に購入され使用されていない移動実験室用の車輌があることがわかりました。検査設備、特に陰圧下で操作を可能とする安全キャビネットも設置されており、この車輌をCOVID-19陽性者をみる敷地内に移動して検査を行うことになりました。

その後、実際の検体を使用して試薬の確認も含めた実験を連日行い、最終的に検査技師の方(非常に明るいエルマさん)が実際に結果をだせるところまで技術指導を行いました。他にもここには書き尽くせないトラブルがあり、毎回頭を悩ましたが、一つずつ解決していきました。
このような経緯を経て、パラオ共和国でいわゆる“移動PCR検査所”が出来上がったのです。
この検査機器一つで、病院内のPCR検査能力を10倍以上にすることが可能となり、今後は入国帰国者への検査や、遠隔地での検査などへの利用が期待されています。

*1  RT-PCR検査:新型コロナウイルス(RNAウイルス)の検出に用いられている手法。RT-PCR(Reverse Transcription PCR)法で、ウイルスのRNAからDNAを合成してPCR法にて増幅、検出する。

実際に使用した移動実験室(モバイルラボ)
車内に検査機器を設置
持ち込んだRT-PCR機器を実際に使用した実験:陽性者の検体のカーブがきれいに上がっている
エルマ検査技師に機器の使用方法を説明している様子

パラオ共和国は太平洋島しょ国14カ国のなかで、最も親日的とされる国の一つであり、歴史的にも日本との繋がりは深いです。鉱物資源と水産資源の供給地のみならず、国際社会における地政学的な特徴から、多くの財政支援を海外から受けています。

一方、先進的な医療機械が導入されるも、使用できる人材や知識がないなどの問題も見受けられました。このRT-PCR機器は現地のニーズがある限り無償リースされる予定ですが、今後も、NGOならではの地元の方々に寄り添ったソフト面での交流もすすめていきたいと考えています。

コロナ病棟での支援に向かうところ、稲葉医師(写真左)と共に
ER室にて準夜勤を担当:現地医師、スタッフと共に

WRITER

医師:
坂田 大三

ピースウィンズ・ジャパン 空飛ぶ捜索医療団 医師 千葉県習志野市出身。外科専門医。 2019年2月から現職、バングラデシュ国ロヒンギャ難民キャンプ診療所運営に携わりつつ、平時は広島県の僻地診療所、災害時にはARROWS医師として現場へ派遣。

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