JOURNAL #252021.09.15更新日:2023.10.24

新型コロナウイルス感染症「一時療養待機所」の意義と課題

医師:坂田 大三

空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”では2021年5月の第4波から広島、岡山の両県で酸素投与などを行う臨時施設へ、医師、看護師、ロジスティックス担当者を派遣して、その運営をサポートしてきました。
現場から見えてきたその意義と課題について報告します。

明らかに増えた若者、10歳代の入所者も

広島県の「酸素センター」は、宿泊療養施設に併設されており、ホテル療養中に具合が悪くなった方がオンライン診療担当の医師の指示で搬送されて来ます。
県の要請を受け6月~8月中旬に何度か勤務しましたが、日が経つにつれ入所者の年齢層が明らかに若くなっていて驚きました。
6月は40歳代以上が多かったが、8月の入所者は20~40歳代が中心で、10歳代の方もいました。
医師としての役割は、酸素飽和度が低い方には酸素投与、高熱が続き食事摂取が困難な方には輸液、対症療法としての内服の指示を行います。
診察後、ホテルや自宅に戻すのは、責任も大きく、難しい判断になります。夜間の様子も診ている看護師や、本人と十分に相談し、慎重に判断する必要がありました。

深夜の緊急入院を依頼するケースも

5月と8月に支援に入った岡山県の一時療養待機所は、広島県の酸素センターよりも、もう少し重症度の高い患者が対象となりました。
5床の施設に平均3人程度が入所し、担当した患者は全員、酸素投与が必要な状況で、既往歴や状況によって、ステロイドの投与も行いました。
デルタ株では消化器症状が強い患者も多く、5月より8月の方が要輸液の患者が増えた印象があります。
医師の最も重要な役割は重症度を判断し、翌日までにできるだけ状態を安定化させることです。
緊急性が高いと判断すれば朝までに緊急の入院を依頼することも必要で、あくまで一時的な待機所であることを念頭に置いた診療と判断が肝要で、深夜の入院搬送となったケースもありました。

「防ぎ得た死亡」減らす役割

酸素投与施設の最も大きな目的は、自宅やホテル療養の患者の急変に迅速に対応することです。
特に都市部で一時頻発した救急搬送困難による治療の遅れを防ぎ、酸素投与や薬剤投与など応急的な治療を開始することで「防ぎ得た死亡」を少しでも減らすことが期待されています。
治療の内容は酸素投与のみの施設から、輸液や薬剤投与まで行う施設もあり自治体や地域によって異なります。
ただ、原則的なコンセプトは同じで、災害医療の際に広域搬送や域内搬送の調整拠点として一時的に患者を引き受けるSCU (広域搬送拠点臨時医療施設)に似た概念と言えるでしょう。
もう一つの意義は地域の拠点病院や入院調整機関の負担軽減です。
地域の拠点病院も、夜間は日中と比べてその対応能力は限定的となります。
夜間に多くの新型コロナウイルス感染症患者の入院を引き受けることは、当直や夜勤業務を担当するスタッフに大きな負担となり、通常救急診療への影響も出ます。
臨時の酸素投与施設で、夜間の搬送を引き受けることで、翌日、体制の整った病院に入院が必要な患者を振り分けることが可能となります。
現在、超多忙となっている地域の拠点病院や入院調整機関、保健所などの負担軽減のためにも意義深い施設だと考えています。

救急の素養も必要、いかに人材を確保するか

課題はやはり人員の確保です。夜間のニーズが高いが、病院のベッドが逼迫すれば日中の入所もあり得るし、原則的に一時的な待機所なので日中は搬出の業務があり、24時間体制で医師・看護師を含むスタッフをそろえる必要があります。
その人材をどこから探すか。
完全なレッドゾーンでの業務となるためPPEの適切な着脱はもちろん、急変のリスクもあるため救急的な素養も必要となります。
コンサルティング会社や各地区医師会に依頼するケースもありますが、全国的なパンデミック下において、医師については地域のリソースに頼らざるを得ません。
もともと疲弊している地域の新型コロナウイルス感染症受け入れ病院からどのように人的リソースの提供を取り付けられるかが、運営の鍵になると考えられます。

軽快後の患者への活用も検討を

自宅療養者が急増した場合には臨時施設のキャパシティが問われることとなります。
私が知る限り、東京などの大都市部を除くと、病院併設で5~8床、ホテルの宴会場などを利用した10~40床ほどの施設が多いようですが、福井県が計画しているように体育館など大きな施設で100床以上を検討する状況になる可能性も有り得ます。
その場合は人的リソースのみならず、酸素濃縮器の手配など様々な課題も併存するとともに、もはや一時的、とはいえず新たな入院施設としての運用を考えることになるのだと考えます。
施設の運用方法は自治体によってさまざまなパターンがあって当然ですが、何度か施設の運営や入院調整に関わって感じるのは、それぞれの施設が地域の感染症医療、救急医療を守るための緩衝材として重要な役割を担っているということです。

入院前の待機だけではなく、急性期病院に入院した後、改善傾向がみられるものの、「自宅に返すにはもう一息」というレベルの患者を引き受ける、後方支援的な施設も併せて検討していただくことを期待しており、引き続き微力ながら私たちもその運営に協力できればと考えています。

WRITER

医師:
坂田 大三

ピースウィンズ・ジャパン 空飛ぶ捜索医療団 医師 千葉県習志野市出身。外科専門医。 2019年2月から現職、バングラデシュ国ロヒンギャ難民キャンプ診療所運営に携わりつつ、平時は広島県の僻地診療所、災害時にはARROWS医師として現場へ派遣。

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